皇帝と猛虎
皇帝と猛虎 皇帝。競馬ファンなら、この名を聞いて思い出すのは一つだろう。日本競馬史上初の七冠馬にして、無敗の三冠馬。その圧倒的な強さと、馬名からつけられた称号。その名をシンボリルドルフ。
幼少期は、母の名がスイートルナだった事と、額に三日月形の白徴があることからルナと呼ばれていた。
競走馬登録時に、オーナーが発音しずらいから『シンボリドルフ』にしようと提案したが、命名担当者が懸命に説得し『シンボリルドルフ』となったというエピソードがある。
ルドルフはまさに、最強の名をほしいままにしていた。
デビューから三冠馬になるまで無敗。競馬ファンからは『強すぎてつまらない』といわれ、関係者も『競馬に絶対はないが、彼は例外。ルドルフには絶対がある』とまで言わしめるほどだった。
確実に、日本競馬界は彼を中心に回っていた。
ロッキータイガー。地方の船橋競馬所属。
デビュー後は成績が振るわなかったが、四歳(当時の馬齢表記。現在の三歳)になると一気に覚醒する。
同世代にも強力なライバルもいた。そのライバルたちとハイレベルな争いを繰り返していくうちに、次第に能力を開花させていく。
上り調子のまま迎えた五歳の秋。ジャパンカップの出走権をかけた東京記念でキングハイセイコーと死闘を演じたのち、出走権を勝ち取る。
こうして、ロッキータイガーは中央のビックタイトルへと駒を進めた。
出身も経歴もまったく異なる二頭が、ジャパンカップの大舞台で激突する。
とはいっても、単勝人気は圧倒的にルドルフに集中していた。地方からということと、芝の経験不足からロッキータイガーは人気薄だった。
レースは大方の予想通り、最後の直線でルドルフが抜けだし後続を引き離す展開になった。異次元の力を見せ付けるその後ろから、誰も期待をしていないロッキータイガーが、それこそ猛虎のように脚を伸ばしていく。
先頭を行くシンボリルドルフ、追いすがるロッキータイガー。
じりじりと距離を詰めるが、最後までルドルフの脚色は衰えなかった。
結局、1と3/4馬身及ばずの二着。それでも、この結果は誰もが驚いたことだろう。
資金も環境も恵まれ、その力と才能をいかんなく発揮したルドルフ。
資金も環境も恵まれない中、地方の意地を見せつけたロッキータイガー。
このレースを動画で見るたびに、胸の奥が熱くなる。
異なる二つの強さと、意地と、プライドが激しくぶつかり合うこの一戦。これを超えるレースは、未だにないと個人的には思っている。
页:
[1]