世界のマイル王
世界のマイル王 世界のマイル王、そう呼ばれた馬がいた。栗毛の馬体に、金髪のような鬣と尾っぽ。その堂々たる姿は、確かに王と呼ぶにふさわしい姿かもしれない。
彼の名は、タイキシャトル。
アメリカのタイキファームで誕生し、アイルランドで調教を受け、日本で最終的な調教を受けてデビューを迎える。
ゲート試験に3回も落ちると言う、なんとも前途多難のような幕開けにより、デビューが4歳と出遅れる。だが、デビュー後は3連勝と大物ぶりを見せつける。
4戦目で初の敗戦を味わうが、そこから彼の王者としての道が始まる。
事実、彼がこの後敗北を味わうのは、引退レースとなったスプリンターズステークス。そこまで、怒涛の8連勝。全て重賞レースである。
国内の短距離からマイル戦線は、常に彼が主役だった。
獲得できなかったG1タイトルは、NHKマイルカップと高松宮記念のみ。春秋マイル制覇、マイルCS連覇、海外G1レース制覇と、その功績は華麗な文字が並ぶ。
海外のジャックル・マロワ賞を勝利した彼は、マイルチャンピオンシップへと駒を進める。陣営はこのレースを最後に、彼の引退を決めていた。
圧倒的一番人気で迎えたレースは、二頭が飛び出すようにハナを切り、3~4馬身をキープしてレースを引っ張る。タイキシャトルは、シーキングザパールと並ぶようにして、3、4番手を追走する。
レースが動いた瞬間、勝利者は確定した。
最終コーナーから直線で、先頭のキョウエイマーチを捉えたタイキシャトルは、驚異的ともいえる豪脚を見せ付け、後続を引き離す。
この時の光景は、まさに衝撃的だった。本当に最後の直線なのか? 本当に他の馬がスパートしているのか? それすら疑いたくなるほどの、圧倒的な末脚だった。
終わってみれば2位を5馬身引き離しての、圧倒的勝利だった。
世界を制した脚、そして王者の貫録。
彼の力は本物だった。
ここで終わるはずだった彼の物語。
だが、JRAの要請により、年末のスプリンターズステークスへと駒を進めることになる。陣営としては予定外の事で、準備不足も重なり、結果は3着となる。
彼のレースは、いつも横綱相撲だった。
先行から最後の直線でさらに加速し、後続を突き放して勝つ。しかも、上がり最速タイムを記録する事さえあると言うものだった。
その裏で、蹄鉄が非常にもろく、水分の含有量も多かった。その為、厩舎スタッフは馬体の管理以上に、蹄の状態管理に気を配ったと言う。
傑出したマイル王。
レース運び、結果はもちろん、レース前でさえ落ち着き払っていたというのだから、本当の意味で王者だった。
こんな大物過ぎる馬は、この先いつ現れるのか……。
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