進化の片鱗
進化の片鱗 ディープインパクト。サンデーサイレンス産駒、唯一の牡馬三冠馬。そして、サンデーの直接の産駒として最高傑作と言う人も多いだろう。
日本のみならず、世界にもその存在は知られている。
今回は、彼について語ってみたいと思う。
ただ、いつものように生い立ちなどではなく、彼自身が『サラブレットの新たな進化を見せた』と言うところに焦点を当ててみたいと思う。
ディープインパクトを語るうえでそのスピードやスタミナなど、目に見える力をあげる人は多いと思う。実際、中距離から長距離にかけて成績を残しているので、そこに目が行くのは仕方ないし、当然ともいえる事である。
だが、本当に見るべきはそこではない。
どちらかと言うと小柄な彼が、あれほどの力を発揮できたのは、彼自身の狂的な柔軟性があったからこそだ。
一般的に、柔軟性の高い馬は距離の融通が利きやすくなる。それに加え、柔軟性の高さはそのまま関節の可動域の広さを現す。これにより、足の動きがよりダイナミックになり、蹄を叩きつける力が強くなる。
馬は蹄を地面に叩きつけ、その反作用で速度を生み出す。その為、地面をたたく力が強ければ、それだけ大きな反作用を生み出し、より速く走ることができる。
ただし、反作用を受けると言うことは、体にも相応の負担を受けることになる。事実、柔軟性が高いと言われたトウカイテイオーや、サイレンススズカなどは、その反作用の影響により骨折をしたとさえ言われている。
ディープインパクトは、極めて高い柔軟性に加え、しなやかで強靭な筋肉の持ち主であったとも推測できる。それは、大きな反作用を受けても、大きな故障をせずに現役を全うしたからである。
筋肉が堅ければ、大きな力を発揮できるが、衝撃の吸収発散能力は弱くなる。大きな負荷のかかる競走馬では、衝撃が吸収されにくい筋肉となり、故障に悩まされる原因ともなりかねない。逆に、しなやかなだけの筋肉では、強い力が生み出せず、速く走ることは難しくなる。
つまり、ディープインパクトと言う馬は、驚異的な柔軟性としなやかさと力強さを高次元で併せ持つ、恵まれた肉体を持って生まれたとさえいえる。そして、この二つがあったからこそ、『飛ぶように走る』とまで言われたのだと思う。
もちろん、その才能を引き出し、いかんなく発揮させるために心血を注いだ関係者の存在が一番大きいと言えるが。
ディープインパクトと言う馬は、天性の最強馬だったのかもしれない。
柔軟性があると言っても、どれくらいだったのか……そう思う方もいるだろう。なので、こんなエピソードを紹介したいと思う。
馬の前肢のストレッチとして、前肢を前に伸ばす方法がある。走る時に、肢を前に出しているときと同じ形にしてやることで、肩から前膝のあたりを伸ばしてやる。この時、大概の馬は45度ほどの角度でとまるが、ディープの場合は水平近くまで伸びたと言う。これだけ伸びる馬は見たことが無いと言われたそうな。
サラブレットが、品種として認められてからおよそ400年。生物としては、まだまだ進化の余地を残していると言われている。その片りんを見せたのが、ディープインパクトだったのかもしれない。
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