音速の末脚
音速の末脚 奇跡とも呼ばれた。音速とも呼ばれた。
僅か3戦で世代の頂点に立った馬。史上二頭目、戦後で言えば初の快挙。
彼に続く馬は未だに現れていない。その馬の名は、フサイチコンコルド。
とにかく体が弱かった。
デビュー前の輸送で肺炎を発症。なんとか回復するも、朝より日中の体温が低くなる逆体温や、輸送の度に熱発する馬だった。
デビュー戦と二戦目で勝利を収めるも、皐月賞前に熱発で回避。
その後も、ダービーに向けてトライアルに登録するも再び熱発で回避。
様々な幸運が重なってようやく出走にこぎつけた日本ダービー。
能力の高さはあるものの、キャリアと体質から人気薄だった。付け加えて、関東に輸送した後も熱発していた。
期待のかからないダービー。それでも、ドラマは待っていた。
最後の直線、一番人気のダンスインザダークが抜けだす。そのまま決まりかと思った時だった。外から鋭い末脚で、先頭に肉薄するフサイチコンコルド。
誰もが目を疑った。来るはずないと思った馬だった。それでも、彼はそのすべてを燃やし尽くすかのような末脚で伸びてくる。
そのまま壮絶なたたき合いを繰り広げ、ゴール前でクビ差で相手を退けた。
この時の実況で、「外から、音速の末脚だ飛んできた!!」と言う実況もあり、翌日の新聞で『音速の末脚』と言う見出しが飾った。
その後、彼は菊花賞トライアル、菊花賞と出走したがいずれも敗退。そして、脚部不安から丸一年出走することなく引退した。
一度きり、たった一度きりだった。
それでも、その強烈すぎる勝ち方は、あまりにも鮮明に、あまりにも強烈にファンの記憶に刻みつけられた。
勝手な思い込みだが、彼自身、競技人生が長くない事を感じていたのかもしれない。だからこそ、その一度きりに魂の全てを燃やした……だからこそ起きた奇跡であったのかもしれない。
競馬はドラマの玉手箱。
だからこそ、僕らは夢を見続けられるのかもしれない。
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