愛すべきお馬鹿さん
愛すべきお馬鹿さん 荒ぶる弾丸、驚異的な良血裏付けらされた身体能力、そしてそれをスポイルするほどの気性難。稀代の癖馬、その名をキングヘイロー。この馬を簡単に例えるなら、『極めて短い湿った導火線が着いた爆弾』
やる気になれば驚異的な力を発揮するも、なかなかその気にならないし、少しでも気にくわなければ癇癪を起こす。
気性ゆえか、長い距離ではその力を発揮できない傾向が強かった。短いところではそれなりに我慢もできるのか、競争成績は1800mまでの勝利しかない。
2000m以上になると途端に振るわなくなり、最高着順は2着。同世代にセイウンスカイ、スペシャルウィークがいたとはいえ、あまりにも残念な結果である。
この馬は、80年代欧州最強と呼ばれる名馬ダンシングブレーヴ父に持ち、ケンタッキーオークスなどを含む、アメリカG1を7勝した名牝、グッバイヘイローを母に持つという、とんでもない血統を持っている。
その血統的背景から、周囲の期待は高かった。
その血の潜在能力か才能なのかは謎だが、デビューから3連勝。しかも、3戦目にしてレコードを叩きだすという大物ぶりを見せた。
ただし、この後は距離延長に対応できなかったり、気性難が災いして道中折り合いを欠いたりと、イマイチ能力を発揮できなかった。
年齢を重ねれば落ち着く……という周囲の期待を見事に裏切り、相変わらずの癖馬っぷりを発揮し、4歳(旧馬齢表記。現在の3歳)時は最高着順2着と、1勝も挙げることができなかった。
5歳の初めに重賞二連勝を飾り、今年こそ覚醒か?と思わせてくれたが、結局この年もミスターキングヘイローだった。
6歳になり、気性も大人びて……来なかったミスターキングヘイロー。
調教師が、その血統的背景からダートG1のフェブラリーSに挑戦した。両親の血が目覚めればと期待されたが、砂被りにやる気をなくしての大惨敗。
その後、G2から格上げされた短距離G1高松宮記念に出走する。
この1戦、彼の中の血の力が目覚めた最初で最後のレースとなる。
レースは最後の直線で、ブラックホーク、アグネスワールドといった短距離のスペシャリストが死力を尽くす。その相手を、我らがキングヘイローは、大外から豪快に差し切る。その姿は、まさに父を髣髴とさせる……というのは、大袈裟すぎるかな。
しかも、豪快と言うにはクビ差という、僅差ではあったりもする。
初のG1タイトルに調教師も涙したと言う。
しかし、この後も彼は癖馬っぷりに磨きをかけ、この年の暮れに引退した。
引退後、牝馬と自身の血統と種付け料が100万と言う手ごろさから、たくさんの交配相手に恵まれ、初仔デビューの年(2004年)にリーディングサイアー5位と言う結果を残した。
引退してからしばらくたって、この馬が繋養されている牧場を訪れた。
もう年齢も15歳だと言うのに、放牧場で元気に跳ね回る姿を見て、いつまでも変わらないなっと、つい笑ってしまった。
超良血なのに癖馬。エリートっぽく見えてお調子者。この馬からは、そんな印象を受ける。だからこそ、いつまでも自分にとっては、『愛すべきお馬鹿さん』なのかもしれない。
余談だが、キングヘイローと作者は誕生日が同じだったりもする。
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